九州医療センターは病床数700床、職員数900名の高度総合診療施設である。医療安全管理部の方針は、@組織横断的な安全対策の実施A標準化等の推進B情報の管理と積極的な開示C職員に対する研修及び健康管理である。2004年度の医療安全管理目標を「医療安全文化の醸成(報告する文化・正義の文化・柔軟な文化・学習する文化)」として取り組んでいる。2004年度のインシデント(不適切行為が患者に及んだが患者に実害はなし)報告数は漸増しているがアクシデント(不適切行為が患者に及び患者に症状や治療が必要となる)報告数は減少している。(図1)このことからは報告する文化が根付き、ヒューマンエラーが発生しても事故に至らない仕組みが整ってきたと考える。
しかしながら、インシデント報告数が多い薬剤を見ると同じようなエラーが発生している。内容の多い順に@情報伝達エラーA準備中の中断やタイムプレッシャーによるエラーB薬剤名や患者名類似によるエラーC知識や技術の不足などである。それぞれの事例に対して改善策を講じても、又、別の場所で似たようなインシデント事例が発生する。これは、当院が実施している注意喚起のメールや視覚的ポスターや医療安全管理教育を継続していてもヒューマンエラーが減らない現実を物語っている。松尾先生が述べている外的手がかりの一つとして当院では、ダブルチェックの徹底やフルネーム呼称、患者さまご自身による名前の口述等を盛り込んだ注射実施フローチャートを作成し更に患者さまと共に薬剤確認等を行う患者参画の安全対策を実施した。7月と11月に注射準備・実施チェック表を元に自己評価・他者評価を行った結果、薬剤エラーインシデント数が一時的に減少した。(図2)ホーソン効果も考えられるが、ヒューマンエラー防止の為に試行錯誤の日々である。
人間は間違いを起こすことを前提に数々の防止策を講じてきたがこれ以上のエラー発生数の減は難しい状況にある。そこで、今までとは違った視点として心理学的根拠に基づいた安全対策を教えていただきたいと考えている。更に、心理学の研究結果を臨床現場に導入し、現場と研究者が協働した安全性に対する心理学的アプローチの実証が今後の安全管理には必要になると思われる。