「ヒューマンエラーを考える 心理学的側面から」 Psychological approach on human error 北九州市立大学文学部 松尾太加志 Faculty of Humanities, The University of Kitakyushu  人間の知覚,判断,意思決定,動作といった一連の行動は,情報処理過程としてみると,機械とは異なり,正確ではなく,論理的でもない。人間は,無意識的に勝手な推論をしていたり,限られた情報だけで判断(ヒューリスティック判断)したりする。外からの情報よりも,自分がすでに持っている知識をもとにトップダウン的に情報を処理している。このような処理過程は,処理を効率化するとともに,状況に応じた柔軟な対応が可能であり,人間が優れた知的能力を有している源となっている。しかし,柔軟であるということは,一方で,かなりあいまいさを内包していることでもある。そのため,場合によっては,結果的に行った判断や行為が,意図とは異なってしまうこともある。これがヒューマンエラーとなる。  このように,ヒューマンエラーは,必ずしも,何らかのエラー要因に基づいて生じるものではなく,もともと人間の内的な処理過程の中に,エラーが発生してしまう過程を含んでいるために生じてしまう。もともとの処理過程の中に内包されているため,それ自体を変えることは難しい。そのため,ヒューマンエラーを防止するには,人間に「注意せよ」とか,「慎重に行え」といった古典的精神主義ではうまくいかない。人間が行おうとしている判断や行為が,本来の意図とは異なる結果をもたらしそうだということを,外から気づかせることが必要となる。