あなたが考えている「心理学」は,本当の心理学ですか?

 毎年,心理学系希望の学生が多いのですが,実際に心理学系に入ってみると,自分の考えていた心理学と違うことに戸惑ってしまう学生が多いようです。
 系を選択するにあたって,「心理学」というレッテルにこだわらずに,自分が本当にやりたいことがどの系なのか,このページを読んで,十分に検討しましょう。


心理学に近いのは,どの論文?

 学生の皆さん(特に1年生)が抱いている心理学のイメージと,実際に学問として行なわれている心理学はかなり違います。皆さんが考えている心理学は,実際は社会学であったり,生涯教育,社会福祉であったりすることが多いようです。
 そこで,皆さんが抱いている心理学のイメージと実際の心理学がどう異なるかを明らかにするために,人間関係学科の過去の卒論タイトルを見てもらって,それがどの程度心理学に近いと思うかどうかを判断してもらう調査を行ないました。詳細は以下の通りです。

[方法]
被調査者:人間関係学科1年生,2年生
調査時期:1999年4月
調査内容:人間関係学科の過去の卒業論文のタイトル(一部,比較文化のものも含まれる)を見て,どの程度「心理学に近いと思う」かどうかを,1点〜5点までで判断してもらいました(点数が高いほど心理学に近い)。「心理学に近い得点」と呼ぶことにします。ただし,被調査者には,人間関係学科の卒論タイトルだということは知らせずに行ないました。さらに,タイトル中「心理学」とか「社会学」といった言葉がある場合は伏せ字として提示しました。

調査した卒論の内訳
  調べた論文数 ゼミ
臨床(A) 11 臨床心理学 心理学系(A)
社心(A) 11 社会心理学
コミ(A) 10 コミュニケーション論
認知(A) 9 認知心理学
社会(B) 10 社会学 社会学・社会福祉・人間環境系(B)
福祉(B) 11 社会福祉
環境(B) 6 人間環境
人類(B) 3 人類学
形成(C) 11 人間形成 生涯教育・生涯スポーツ系(C)
教育(C) 10 生涯教育
スポ(C) 4 生涯スポーツ
民俗(比) 6 民俗学 比較文化学科
合計 102    

[結果]
 学年別に各論文タイトルの「心理学に近い得点」の平均値を算出し,その上位20位をあげました。1年生では,心理学ではないものが,20タイトル中11タイトルもあります。一方,2年生になると,心理学でないものは,22タイトル中5タイトルにすぎません(一部,現在の教員の専門領域と異なるものを削除しています)。

どれが心理学に近い?(1年生の結果) が心理学系の論文
順位 平均得点 論文タイトル ゼミ(系) 2年生の順位
1 4.67 ムカつき、キレる子どもたち 形成(C) 33
2 4.66 他者からの評価が自己評価に与える影響 コミ(A) 1
3 4.60 -------------------------- ------ 10
4 4.52 青年期における、人格と親の養育態度との関連について 臨床(A) 25
5 4.51 思春期の自己形成過程における評価の役割 教育(C) 17
5 4.51 思春期の人格発達の危機と教育指導 教育(C) 32
7 4.48 児童虐待 −子どもと親への援助についての考察 福祉(B) 38
8 4.47 ストレスと自己受容性との関連についての研究 臨床(A) 3
8 4.47 人間関係における「自己と他者」の関係性−中島みゆきの詞の場合− 形成(C) 7
10 4.45 大学生の友人関係と孤独感に関する研究 臨床(A) 4
11 4.41 若者の犯罪と社会変動 社会(B) 36
12 4.36 初対面時における印象形成に関する心理学的研究 コミ(A) 2
13 4.29 「異常」をつくる「普通」の人々 〜異物に対する「解釈」をめぐって〜 民俗(比) 20
14 4.28 青年期におけるアイデンティティ危機と生涯学習 教育(C) 47
15 4.24 養護施設の処遇内容が児童に与える影響について 福祉(B) 18
16 4.23 女子にとっての父親の存在と関わり方に関する研究 臨床(A) 24
17 4.21 主観的温かさ冷たさに及ぼす色の影響について 認知(A) 5
18 4.18 保育園児の行動に関する心理学的研究 認知(A) 30
19 4.15 心理学の専門教育を受けることによる心理学に対するイメージの変化 コミ(A) 14
20 4.13 母子の共生関係に関する研究 福祉(B) 37


どれが心理学に近い?(2年生の結果) が心理学系の論文
順位 平均得点 論文タイトル ゼミ(系) 1年生の順位
1 4.55 他者からの評価が自己評価に与える影響 コミ(A) 2
2 4.48 初対面時における印象形成に関する心理学的研究 コミ(A) 12
3 4.47 ストレスと自己受容性との関連についての研究 臨床(A) 8
4 4.36 大学生の友人関係と孤独感に関する研究 臨床(A) 10
5 4.34 主観的温かさ冷たさに及ぼす色の影響について 認知(A) 17
6 4.22 態度変容における段階的説得法の効果に関する研究 社心(A) 23
7 4.20 人間関係における「自己と他者」の関係性−中島みゆきの詞の場合− 形成(C) 8
7 4.20 留守番電話の伝言のしにくさに関する実験的研究 コミ(A) 39
7 4.20 子どもの空間認知に関する心理学的研究 認知(A) 57
10 4.18 -------------------------- ------ 3
10 4.18 視覚的注意に関する心理学的研究 認知(A) 55
12 4.14 時間知覚に関する心理学的研究 認知(A) 66
13 4.11 空間知覚に関する心理学的研究 認知(A) 62
14 4.10 心理学の専門教育を受けることによる心理学に対するイメージの変化 コミ(A) 19
15 4.09 大学生における自尊感情と自我同一性についての研究 臨床(A) 24
15 4.09 達成目標が認知に及ぼす影響について 認知(A) 25
17 4.08 思春期の自己形成過程における評価の役割 教育(C) 5
18 4.05 養護施設の処遇内容が児童に与える影響について 福祉(B) 15
18 4.05 表情映像の局部提示による情緒判断 コミ(A) 41
20 4.04 「異常」をつくる「普通」の人々 〜異物に対する「解釈」をめぐって〜 民俗(比) 13
20 4.04 目標設定課題における達成動機の影響 コミ(A) 21
20 4.04 音楽による記憶の文脈依存効果 コミ(A) 47

[考察]
 1年生の皆さんは,まだ心理学がどのようなものかわかっていないようです。自分の勝手なイメージでとらえているようです。自分が心理学だと思っているものは,教育学であったり,社会学であったり,社会福祉だったりするのです。
 2年生になると,ある程度,心理学というものがどのようなものかわかってきていますが,まだ本質的にわかっていないことがあるようです。

 心理学系の3,4年生に,ゼミを選択するときや卒論のテーマを決めるときに,何をしたいかを尋ねると,心理学ではないことを平気で言う学生がいます。系を選択するときに,自分がやりたいことが心理学ではないことをわからないまま進級してしまうために,こうなってしまうのです。

 「○○に興味がある」から,心理学に進みたいと思っている人もいるでしょう。ところが,その「○○」は心理学で行なうことではなく,他の系で行なうものであるものがかなりあるのです。

 さあ,もう一度,自分にふさわしい系がどの系であるか考えてみましょう。

※この調査は,コミュニケーション論ゼミ1999年度卒業論文「学生が抱く心理学のイメージ」の調査によるものです。
 卒業論文のタイトルを提供していただいた人間関係学科及び比較文化学科の先生方及び調査に協力していただいた学生さんにこの場をお借りしてお礼申し上げます。
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