推薦図書
私が読んだ本の中から推薦できる図書を紹介しています
ヒューマンエラー
失敗を教訓に活かすことは重要なことです。ただし、失敗をゼロにするために、新たな手順を加えたり、マニュアルでやるべきことを厳密に定めても、想定外のことが必ず生じます。マニュアル通りに行うことがかえって危険になってしまうこともあります。
あらかじめ決められた手順によって失敗をゼロにしようとするのではなく、そのときの状況にうまく対応して問題回避をめざすという発想の転換が必要です。その考え方がレジリエンスエンジニアリングです。
本書は、「はじめて最初から日本語で書かれた、レジリエンスエンジニアリングの入門書」と紹介されています。これまでのレジリエンスエンジニアリングに書かれた書籍は翻訳ばかりで、難解な点も多く、私自身途中で読むのをやめてしまったこともあります。しかし、本書は、さまざまな事例に基づいて紹介されており、難しい概念も読書の視点に立ったわかりやすい解説がなされています。ぜひ読んでみてください。
原題はBlack box thinkingです。飛行機にはブラックボックスがあり、事故を起こしたとき、会話の記録や様々な飛行記録をもとに分析を行い事故原因を探る文化が根付いています。失敗を教訓に活かす文化です。そのときに大事なのは、失敗した当事者を罰してはいけないということです。人は罰を避けるためにミスを隠してしまいます。そうすると、真の原因を調べることができなくなってしまうのです。
また、本書では、偏見に左右されず明確なエビデンスで分析する必要性も強調されています。ただし、明確なエビデンスが出され、自分が考えていた結論が間違っていることがわかっても、人間は最初に信じこんでしまった信念を変えることができません。間違いを認めず、正しいと信じ込んでしまう人の心理についてもするどく考察されています。
抽象的な話ではなく、様々な事例を取り上げられ、具体的に述べられています。非常に読みやすく、専門的な知識がなくても読むことができます。おすすめの本です。
事故がなくならないのは,私たちがリスクを正しく認知できないからです.何をもって正しいというのかは難しいところですが,本書では,人がリスクをどのようにとらえているかを心理学的観点からわかりやすく説明されています.とくに,リスク・ホメオタシス理論については勉強になります.
個人的には,リスク・テイキングの説明でアメリカンフットボールの例が非常にわかりやすかったのと,ヒューマンエラーについて,「ヒューマンエラーはシステムの中で働く人間が,システムの要求に応えられないときに起きるもの」と表現されていたのが,秀逸に感じました.
リスク認知の入門書といってもいいと思います.非常に読みやすくお薦めの本です.
人間は自分の行動に過度の確信をもってしまいます.大丈夫だと思ってしまうため,チェックリストなんて面倒なものを使いたくないと思ってしまうのでしょう.本書はいかにチェックリストが有効かを教えてくれます.事例が物語風に描かれていて,チェックリストの導入の経緯からそれが実際に役立った場面まで,わかりやすく書かれています.この本を読むと,タイトル通り,なぜチェックリストを使わないのかと思ってしまいます.
チェックリストは,私が考えているヒューマンエラー防止のための外的手がかり利用の動機づけモデルの中のドキュメントに相当します.あまりチェックリストには言及していませんでしたが,もっと積極的にチェックリストを外的手がかりとして重要であると言及すべきだったと思っています.
それぞれのトピックでは,心理学的な観点からの説明がなされており,なぜ人は失敗するのか,そしてどのようにすれば防ぐことができるのかが説得力があります.失敗という身近な話題を通して,心理学の用語が説明されてあり,心理学の勉強にもなります.心理学に馴染みのない人は,各用語について,もっと詳しく書かれた心理学の本で勉強するとよいでしょう.芳賀先生のご自身の体験も交えて書いてあり,親しみやすく気軽に読める本です.ヒューマンエラーに関心がある人も,心理学に関心がある人もぜひ読んでみてください.
ヒューマンエラー発生のメカニズムから事故分析,その対策までを具体的な事例を交えながら,非常にわかりやすく解説してあります.いつも言われることですが,ヒューマンエラーは原因ではなく結果であって,エラーを起こした当事者の責任に帰してしまうと何も解決できないということです.本書では,事故事例については詳細に記述されていて,目先の原因だけではなく背景要因に目を向けることの大切さが伝わってきます.詳細であるがために,事故全体の流れを理解するのに数回読まないといけないところもありましたが,それだけひとつの事故には単純な要因ではない複雑な要因が関わっているということだと思います.
具体的な対策として河野先生の4STEP/Mがわかりやすく紹介されて,非常に勉強になりました.お薦めの一冊です.
ミスをすると,責任者が出てきて,頭を下げて謝罪し,ここぞとばかりマスコミ各社のフラッシュがたかれ,「もう二度とミスのないように努めます」と.でも,本気で失敗のないように取り組んでいるとは思えません.マスコミも,表向きは原因追求を装っていますが,誰が悪いのかを探しているだけで,責任者が頭を下げている絵が欲しいだけのようにしか思えません.
失敗は必ず起こります.失敗をゼロにすることは容易なことではありません.軽々しく「失敗をゼロにする」なんて言うのはウソにすぎません.失敗を無くすことは目標かもしれませんが,本当に大事なことは失敗を教訓として活かせるかどうかです.失敗をしないことがいいことではないのです.失敗した後に組織として同じ失敗が生じないような仕組みを作ることが大切なのです.
本書の裏表紙に「『失敗はなくならない』ことを前提として,しなくてもよい失敗を起こさせない仕組み作りの重要性を説く画期的失敗論」と紹介してあります.これが画期的ではなく,それが常識になるようにならないと同じミスが何度も繰り返されてしまいます.
さまざまな分野の具体例を取り上げてあり,とてもわかりやすく書いてあります。できる限り専門的な用語を使わずに,日常的な言葉でわかりやすく噛み砕いて表現してありますので,新書や文庫を読むような感覚で読めます。文体が「ですます」になっており,文章から,柔和な小松原先生のお人柄を感じ取ることもできます。新書かなんかで手頃な価格であればいいのですが,お薦めの一冊です。
表紙を見ただけで,面白そうな本だというのがわかります。一般向けに書いてありますので,とても楽しく読めます。
ただ面白いだけではなく,タイトル通りのことを,この本を読んで理解してほしいのです。ミスは誰でもしてしまいます。それをダメだといってしまってはいけないのです。本書の最後のほうに書いてある言葉が印象的でした。日本人は「ミスに厳しく違反に甘い」。ミスはあってはならないという前提でしくみが作られているために,いつまでも事故がなくならないのです。ミスが生じることを前提で,それが事故につながらないようにすることが大切なのです。
とても面白い本で,一気に読んでしまいました。文章もわかりやすく,ヒューマンエラーの入門書としては最適です。新聞を賑わした事故事例から,私たちが日常的に経験する失敗まで,具体的事例を織り交ぜながら,心理学的概念が非常にわかりやすく説明されています。随所に著者自身の体験が出てくるので,エッセーでも読んでいるような気楽な感覚で読むことができます。しかも,それでいて,心理学の話をきちんとされているので心理学の勉強にもなるのです。ぜひ,読んでみてください。
今の社会(とくに日本)は失敗に対して寛容ではなくなってしまっています。とくに,問題なのは,ミスをしたことに対して,犯人探しをするだけで,ミスの原因究明にエネルギーが注がれないことです。それによって,また失敗を繰返すだけになってしまっているのです。どうすれば失敗を防ぐことができるのかは,まず,失敗に対して寛容になれることから出発することが大事なのです。そして,冷静になってミスの原因を考える。そうすることによって,失敗が次の改善へとつながるのです。
海保先生らしいわかりやすい文章で,誰にでも簡単に読める一冊です。この本を買っても失敗はないと思います。
アメリカでは,航空機事故などが起こると,事故当事者は,事故に関する詳細な情報を提供することによって免責がなされます。それは,事故に関する情報が以後の安全対策の貴重な情報になりえるからです。事故を起こしといて許されるなんて,そんな馬鹿な話があるかと思われるでしょう。私も安全対策が優先されるべきだと頭では思っていましたが,心の底では,完全に納得できていませんでした。でも,この本を読むと,それが十分に納得できます。
日本では,事故が起こると,「誰が悪かったのか」が中心課題のようになってしまっています。原因究明もなされますが,誰が悪いかをはっきりさせるためになされるのです。警察が介入し犯人探しをし,さらにマスコミも担当者に頭を下げさせることしか考えていません。本来は,事故の当事者の重要な証言が今後の安全対策に貴重な材料になるはずなのに,自己防衛のために何も語ろうとはしません。そして,同じような事故がまた繰り返され,尊い多くの人命が失われるのです。
事故の加害者(?)にどれだけ重い罰則を与えても,事故はなくならないのです。罰を与えることは事故への抑止力につながらないのです。事故は,表面的に出てこない潜在的なエラーの積み重ねの偶然で生じます。エラーを犯したとき,罰を恐れて報告しないことがどれだけ危険なことであるのか。それがいかに愚かなことであるのかを早く認識すべきです。むしろ免責をして,貴重な情報を提供してもらい,それ以後の事故を防止することのほうが,私たちにとっては有益なのです。
筆者は,パブリック・インタレスト(公共の利益)の優先を強調しています。わずか数名の人に罰を与え,また大事故を起こして,多くの犠牲者を生むことを選択しますか? それとも,数名の人に免責を与え,みんなが安全に飛行機に乗れることを保証することを選択しますか?
人間が誤りをおかすのは,当然のことです。それをポジティブな面からもとらえようとしています。また,エラーをおかさないようにするにはどうしたらいいのかも書かれています。この分野の第一人者である海保先生が一般読者にもわかるように書いた本です。気軽に読める本ですので,是非読んでみてください。