推薦図書 2024/8/25 更新
私が読んだ本の中から推薦できる図書を紹介しています
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2024年1月の羽田空港での衝突事故についていろいろ調べていく中で、航空管制について読んでみた本です。航空管制で使う用語は決まっていて、それを使用しておけば、事故など起きないように思えますが、現実はそうではないようです。マニュアルにどのような場合にどのような指示を出すべきかは書かれているようですが、想定される場面が増えればマニュアルはどんどん分厚くなってしまいますし、あらゆる場面が想定できるわけではありません。
これは、安全に対するSafety-IとSafety-IIの考え方の違いに近いものがあります。マニュアルに網羅的に記述してミスを完全になくそうと考えるのがSafety-Iの考えです。しかし、現実はそれでは対応できません。イレギュラーな事象が生じても、それにうまく対応することをめざすのがSafety-IIです。Safey-IIの考えを持っていないといけません。
管制の仕事は、管制官とパイロットとが無線の音声だけで行うコミュニケーションであるため、コミュニケーションの問題として非常に興味深いものです。どのようなタイミングでどのような言葉を発するのがいいのか、経験を積まないといけないのでしょう。本書での「相手の立場に身を置いてみる」という言葉が非常に印象的でした。コミュニケーションの下手な人は、一方的に自分の言いたいことを言ってしまいます。コミュニケーションは相手が何を考え何を思っているのかを考えないとうまくできません。「相手の立場に身を置いてみる」ということはコミュニケーションにとってもっとも大切なことだろうと思います。それはすぐにできるものではないでしょうが、それを常に意識しておくことが大切です。
航空に興味ある人だけではなく、コミュニケーションに興味ある方にもお薦めです。
動物の中には視覚を持っていない動物はたくさんいます。同じ地球上で生活をしているわけですが、視覚がないと生きていけないわけではありません。物理的な世界をすべて正しく知覚していないと生きていけないわけではなく、人間は他の動物と異なって聴覚や嗅覚などが劣っています。逆に他の動物では感じとっているにおいや音を人間は感じることができません。人間であれ動物であれ、外界世界をすべて把握するのではなく、自分たちの行動にとって必要な世界を作り上げて生きているわけです。それはユクスキュルのいう「環世界」なのでしょう。
ただ、人間は視覚に頼った生活環境を作ってきたため、目の見えない人が不自由さを感じているだけです。本書の最後のほうでも書かれていますが、目の見えないという障害はその人のほうの問題ではなく、人間が作り上げてきた視覚に依存した生活環境のほうの問題なのです。
人間の知覚について考えるにも、障害をどうとらえるかを考えるにも、読むべき価値のある本です。
心理学の教科書などで書かれている実験の紹介は、文章が無味乾燥であったり無機質な感じであったりするのですが、本書では、背景的な部分も含めて書かれてあり、実験の様子も実験に参加した人(あるいは動物)の立場からも書かれています。そのためか、非常に読みやすく読み物としてスラスラ読むことができます。
さらに、心理学の研究の流れにうまく収められています。これは、感心いたしました(たぶん、私にはできない)。心理学という学問をどのように捉えるべきかを勉強するには非常によい本です。心理学を勉強しようと思う人に推薦できる本です。
私たちの知覚は、物理的世界のありのままを知覚しているのではありません。例えば、段差があったとき、私たちは物理的にそれが何cmであるといったことを知覚するのではなく、それが乗り越えられる段差なのかどうかを知覚するのです。そのため、見る人によって、その段差をどう捉えるかは異なるのです。同じ段差でも背が高く若くて健康な人が乗り越えられると思えば、段差は低く知覚します。しかし、高齢の方で乗り越えられそうにないと思った方は、段差を高く感じます。
知覚は、私たちがなんらかの行動する際に必要となる情報をとらえればよいのです。物理的な正確さは必要としません。そして、自分の身体との関係性が重要になります。この本の原題の副題は"How our bodies shape our minds"となっています。つまり体が私たちの心を形成するということです。
したがって、その話は知覚だけではありません。タイトル(原題はPerception)を見ただけでは知覚だけの内容のように思われますが、発達や認知、社会心理学、そして文化の話まで幅広く書かれてあり、非常に面白い内容になっています。
鈴木先生は2023年3月にお亡くなりになられました。訃報に接したのは2023年末でした。喪中の欠礼が届き、鈴木先生のご親族の方が亡くなられたと思ったら、奥様からの欠礼でした。ショックでした。ほんとうにショックでした。私と同い年です。
20年来の付き合いでした。付き合いといっても、学会で顔を合わせるとちょっとお話をし、年賀状だけのやりとりが続いていた程度です。研究領域や関心が近いからでしょうか、学会ではよくお会いしていました。どういうきっかけでお話をすることになったのか記憶にないのですが、親しげにお話をしていただいていました。研究の話をしたこともあまりなかったように思います。ただ、一度だけ情報処理学会の雑誌の特集記事の編集をなされ、私に原稿を依頼されたことがあっただけでした。もっともっと活躍してほしい先生でした。残念でなりません。ご冥福をお祈りいたします。
さて、この本では「学び」をとりあげています。私自身は学習心理学を研究分野としていると公言しているものの、行動主義的に行動の変化にしか注目していませんでした。学びにおいて頭の中で何が起きているのかをこれまであまり考えたことがありませんでした。
例えば、本を読んでそこに書かれていることを頭の中に記憶しただけでは学習したことにはならないでしょう。実は、私の今の状態は、その頭の中に記憶しただけになっています。鈴木先生のこの本で何が書かれているのか私なりにまとめようとしてもうまくいかないのです。
学びとは、もっと奥が深く、自分の経験やさまざまな状況や環境のリソースを活用して、創発が生じることなのだろうと思います。創発は意識的にできるものではなく、「多様なリソース、揺らぎ、環境が生み出す」ものだと鈴木先生は言われています。今の私は揺らぎの状態にはあるのですが、多様なリソースや環境をうまく活用できていません。そのため、まだ学習したことになっていないので、鈴木先生の本を読んでの感想もうまくまとめられないのです。ここまでの私の文章で何を言わんとするのかわからないかもしれません。
鈴木先生のこの本は奥が深いです。ただし、内容が難しいわけではありません。非常にわかりやすく書かれています。今の大学教育の在り方に対する批判めいたことも書かれており、共感できるところも多々あります。ぜひ読んでみてください。
ChatGPTは数えるほどしか使ったことがありませんが、使いようによっては大変便利です。非常に優れたものだという半面、何か落とし穴があるのではないかと不安になってきます。返してくれる会話の内容の真偽を確かめることができない場合があることは危険なようにも思えます。もっとも、これはChatGPTに限ったことではなく、リアルな世界でも真偽がわからないことはあるはずです。人の話やネットの情報を鵜呑みにしてしまうこともあるからです。
ChatGPTを特別扱いするのではなく、本書でも書かれているように、「完璧ではなく、誤りも犯す。人とは考え方が違っており、基本的な常識や価値観が欠けていることもある」というような存在だと考えればよいのでしょう。そのような人はリアルな世界にも存在しているはずです。「ちょっと変わった『人』として付き合うのはどうだろうか」というのが正解かもしれません。
どう考えるかは個人次第でしょう。ただ、何もわからないまま絶賛したり不安に思うのはよくないでしょう。そのためには、本書のようにChatGPTの大規模言語モデルがどのようなものかある程度知っておくといいでしょう。読んでみると、専門的な説明の深い話になると理解しづらいところもありましたが、それでも素人にわかりやすいように書かれています。
本書は、心理学が面白いという期待を裏切らないように、一般的な心理学の入門書とは構成が異なっています。心理学が仕事や日常にどのように活かせるかの話からはじまって、一般の人が心理学に対して興味をいだいている分野から紹介しています。そして、一般の人が心理学の分野だと思われていない話(しかし重要な内容)が後ろのほうにきています。
網羅的に一冊の中にコンパクトに収めてあるため、広く浅く書かれているところもあります。そのため、内容はよくわからず字面だけを追ってしまう部分もありますが、心理学を学ぶ上で、こういうことも理解しておいていかないのだということにはつながります。
さらに、特徴的なのは本書では2人だけで執筆していることです。心理学の教科書の多くは、複数の著者が分担して書いています。心理学はいろいろな分野に分かれているため、それぞれの分野の心理学者が書いたほうがいいからです。ただ、そうなってしまうと、形式的な文体は揃えてあるものの、書きぶりは異なっていますし、どこまで内容を掘り下げるかの統一感がなくなってしまいます。少ない人数で書いたほうが、統一感があり、読みやすくなります。
心理学に興味を抱いている人は読んでみてください。
親しみやすい表現で書かれているので、気軽に読むことができました。私が心理学の知識があるからスラスラ読むことができたのでしょうが、まったく心理学について知らない人にとっては、なかなか頭に入ってこないかもしれません。心理学史について書かれている書籍はいろいろありますが、この本はコンパクトにまとめてあるので、心理学を勉強していて、心理学の歴史について知りたいと思った人にとっては、本書のタイトルにあるように「はじめの一歩」として読むにはいい本だと思います。
「人間は正しい行動を普段していて、何かの要因でヒューマンエラーを起こしてしまうというのは間違いである。人間はもともと正しい行動をしているわけではない」といったことを、ヒューマンエラー防止の研修を行うときいつも話している。
「まちがえる」というとき、私たちは、何か「正しい」まちがえない状態があってそれから逸脱しているように考えてしまう。そうではなく、人間の行動も脳のふるまいもあいまいで複雑になっている。私たちが「まちがえている」と感じたときも、「正しい」と感じたときも、人間の行動や脳のふるまいに何か決定的な違いがあるわけではない。「正しい」と感じるときが多いから、まちがったときに何か特別なことが生じていると思ってしまうだけである。
教科書に書いてあるニューロンの伝播のしくみは単純化されてわかりやすい。でも、実際の脳の中はもっと複雑になっていることが本書を読むとわかる。その単純化されたしくみをまねてディープラーニングなどでAIを構築しようとしても、限界がある。
実用的に利用できるものも構築できるが、それも常に「正しい」答えを出してくれるわけではない。「正しい」と感じるのが人間が行う場合と同等以上になり、機械に任せて人間の負荷が減るのであれば、実用的になるであろうが、脳とAIとの本質的な違いの溝は埋められない。
脳について、AIについて、そして、心とは何かを改めて考えるには読んでみるべき良書である。