推薦図書 2025/5/31 更新

私が読んだ本の中から推薦できる図書を紹介しています

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最近読んだ本    は1カ月以内


  • 宇田川敦史 (2025). アルゴリズム・AIを疑う 誰がブラックボックスをつくるのか 集英社新書
     ネット上の情報は膨大でその中から自分に必要な情報を探し出すのは大変です。検索エンジンやレコメンド機能などのおかげで、苦労せずに必要な情報をみることができるような仕組みになっています。
     でも、その仕組みは一般ユーザーからみるとブラックボックスになっています。そのボックスでは誰かが作ったアルゴリズムが動いているのです。それは、ユーザーが見たいと思う情報を表示させるようなアルゴリズムになっているのですが、ほんとうのところは、ユーザーにいかに注意を向けさせるかであり、アテンション・エコノミーという経済原理が働いています。ユーザーは自分に有益な情報を表示してもらっているという感覚かもしれませんが、ただアルゴリズムに操られているだけなのです。
     著者のデジタルマーケティングの仕事経験からの観点、そして研究者として心理学的視点からの考察もあり、興味深い内容でした。

  • 鹿毛雅治 (2022). モチべーションの心理学-「やる気」と「意欲」のメカニズム 中公新書
     タイトル通りの期待にたがわぬ内容です。動機づけは、人間がなぜ〇○という行動をするのかということと結びついた概念ですから、心理学の中心的な話だと考えてもよいかもしれません。そして、実践的に役立つ内容もかなり含まれています。本書はボリュームもあって、専門的な用語が出てくるので、全部読むには骨が折れるかもしれません。しかし、新書として出版されているだけ、平易な表現でわかりやすく説明されています。
     私自身、かつて心理学の教科書を出版するとき、動機づけの部分を担当して原稿を書いたことがあるのですが、表面的な知識を文章化しただけでした。本書を読んでみて、納得のいくところが多々あり、私自身の勉強にもなりました。
     全部を読もうとするとそれこそモチベーションが維持できないかもしれません。いろいろな理論が出てきますので、面白そうだと思われるところだけを読むだけでもいいと思います。

  • 畑村洋太郎 (2016). みる わかる 伝える 講談社文庫
     本書で語られていることは心理学的でうまく説明できる。ただし、それを心理学者が心理学の用語を使って説明しても小難しくなってしまうだけである。それを畑村先生は身近な例を用いながらわかりやすく説明されている。
     私自身の関心あるテーマが多く、納得のいく話ばかりであった。伝えることで大切なことは、「伝える工夫よりも、受け手が欲しくなる状況をつくること、そして伝わったかどうかを見守ることだ」と述べてあるのはその通りで、なかなかそれが自分で出来ていないことは反省させられる。
     また、マニュアルなどは陽の部分だけではなく陰の部分も伝えないといけないというのは、私もかねてから主張(それほどでもないが)している。マニュアルにある通りしないと何が問題なのか、そういうやり方に決めたのはなぜなのかが伝わらないといけない。これは、制度などを決めるときも同じで、決まったことだけしか文書化しないことがあり、なぜそのような制度に決まったのかが伝承されていかないと、作成したときの事情を知らない人が後で改訂すると、改悪されてしまう恐れがある。
     非常に読みやすく、ここで書かれていることはいろいろな場面で役に立つ。一読あれ。

  • 今井 翔太 (2024). 生成AIで世界はこう変わる SB新書
     著者自身がAI生成イラストを使ったイラストを投稿されたエピソードを書かれていました。著者のイラストは閲覧数も伸びず、「いいね」もつかなかったそうです。一方高い評価のイラストは、元々手書きのイラストレーターがAIが生成したものに手を加えたものだったそうです。
     生成AIは完全に任せてしまうこともできますが、ある程度AIに作ってもらって手を加えるという使い方が必要な場面が出てきます。私も最近は必要なプログラムはAIにある程度作ってもらい、自分で手を加えることをしています。そうすると効率的にプログラムを完成させることができます。
     補完的に使うだけか完全に人間に置き換えて利用できるか、生成AIの進化に依存することもあるでしょうが、いかにプロンプトに対して適切な指示をAIに与えることができるかによるでしょう。それがうまくできるにはAIに作ってもらおうとしている内容にある程度精通していないといけないでしょう。
     生成AIをツールとして使うか、人間の代わりとして使うか、読んでいて納得させられる本でした。

  • 山ア勇治・矢沢久純(編)(2025). 北九州大学ものがたり:原爆投下予定地・小倉から、「銃」ではなく「ことば」による平和を追い求めて 溪水社
     北九州市立大学は、100を超える公立大学の中で3番目の規模を誇りますが、そのルーツは小倉外事専門学校にあり、開学以来国際交流が大きな柱になっていました。その国際交流の発展に長年貢献いただいたのが、本書の編者である山ア勇治先生です。先生は北九大の卒業生であり、北九大の教員として長年教鞭をとってこられました。北九大の生き字引といってもいい方です。
     北九大がこれまでにも発展し、多くの大学と国際交流を続けられたのも山ア先生をはじめ多くの先人の努力があったからです。その山崎先生が法学部の矢沢先生と対談し、大学創設の経緯から国際交流におけるご苦労(ご功績?)を語っていただいています。あまり知られていない裏話も含め、朝ドラになってもいいような展開もあります。対談形式ですので、非常に読みやすく、北九大の歴史が見えてきます。
     「刊行によせて」という文を書かせていただきましたが、ここは読み飛ばしていただいて、山ア先生の語りを楽しんでください。
     オンデマンド出版ですので、本屋には置いてません。Amazonで購入してください。

  • 小倉孝保 (2024). 35年目のラブレター 講談社文庫
     同名の映画を見ました。読み書きできない自分をずっと支えてくれた妻に書くラブレター、夫婦愛を描いた感動的な映画でした。
     この本のほうの著者は取材されたノンフィクション作家の方ですが、主人公の私小説のように書かれています。映画では描かれてない部分もかなりあります。とくに子どもの頃のことや定年後に読み書きを学ぶために通った夜間中学のことなどが詳しく書かれています。学ぶ機会が得られなかった子どもの頃の辛い体験は想像を絶するものであり、一方でそのような経験をされながら定年後に読み書きを学ぼうと決断された強い意思には敬服するものがあります。
     映画とともに読んでみてください。

  • 朝日新聞「国立大の悲鳴」取材班 (2024). 限界の国立大学 法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか? 朝日新書
     大学のお金は、大学が通常の運営に使える基盤的経費と使途が決まっている競争的資金があります。競争的資金は、大学が特別な教育や研究の事業を計画し、それに使いたいと国などに申請してもらえるお金です。もらえるかどうかは大学間の競争になってしまいますので、競争的資金といいます。使途目的を明らかにしているので使い道は決まっています。
     一方、基盤的経費は、通常の大学の運営に使う生活費みたいなものです。教職員の給与、事務費、設備維持費、光熱費、通常の学生の教育に係る経費などです。生活費は、授業料収入と国からもらえるお金があります。授業料は額がおよそ決まっていて学生の数以上の金額になることはありません。そのため授業料だけではやっていけないので、国からお金がもらえます。国公立の場合の運営費交付金、私立の場合の私学助成金です(仕組みは国公私立によってかなり違う)。国公立の場合、授業料を低く設定していますから、運営費交付金頼みとなります。
     問題なのは、国立大学の運営費交付金が年々下がっていることです。予算が少ないから、よい成果を出したところには多く、そうでないところには少なくするようにしたのです。
     少なくなったのは成果を出せなかったからしかたないと思われるかもしれません。潤沢に生活費があればいいのですが、もともと少ない生活費の一部をプールして再配分したから、少なくなったところはたまったものではありません。人件費や光熱費の高騰で死活問題です。トイレの改修もままならないのです。学生の教育にも支障がでてきます。
     しかも、その成果が問題です。もともと規模の大きい大学は成果は出しやすいのですが、国立大学の中にも小さな大学はあります。そういったところは成果は出しにくいのです。資本主義になってしまっているのです。富めるものはより富めるしくみになってしまったのです。
     競争的資金で頑張ればいいと思われるかもしれませんが、こちらは生活費には使えないですし、こちらこそ資本主義なのです。評判が悪かったのは大学ファンドというものです。資金運用益によって、世界と伍する研究大学にお金を支援しようというものです。建前は全大学が対象ですが、それに応募できる大学は富める大学でしかありません。いわば富裕層を相手にした政策です。もっと研究の裾野を広げるような支援をすべきだと考える人は少なくありません。
     国立大学に限らず、今の大学のおかれた危機的な状況は憂うべき状況です。本書ではその一端を知ることができるでしょう。

  • タワーマン (2024).  航空管制 知られざる最前線 KAWADE夢新書
     2024年1月の羽田空港での衝突事故についていろいろ調べていく中で、航空管制について読んでみた本です。航空管制で使う用語は決まっていて、それを使用しておけば、事故など起きないように思えますが、現実はそうではないようです。マニュアルにどのような場合にどのような指示を出すべきかは書かれているようですが、想定される場面が増えればマニュアルはどんどん分厚くなってしまいますし、あらゆる場面が想定できるわけではありません。
     これは、安全に対するSafety-IとSafety-IIの考え方の違いに近いものがあります。マニュアルに網羅的に記述してミスを完全になくそうと考えるのがSafety-Iの考えです。しかし、現実はそれでは対応できません。イレギュラーな事象が生じても、それにうまく対応することをめざすのがSafety-IIです。Safey-IIの考えを持っていないといけません。
     管制の仕事は、管制官とパイロットとが無線の音声だけで行うコミュニケーションであるため、コミュニケーションの問題として非常に興味深いものです。どのようなタイミングでどのような言葉を発するのがいいのか、経験を積まないといけないのでしょう。本書での「相手の立場に身を置いてみる」という言葉が非常に印象的でした。コミュニケーションの下手な人は、一方的に自分の言いたいことを言ってしまいます。コミュニケーションは相手が何を考え何を思っているのかを考えないとうまくできません。「相手の立場に身を置いてみる」ということはコミュニケーションにとってもっとも大切なことだろうと思います。それはすぐにできるものではないでしょうが、それを常に意識しておくことが大切です。
     航空に興味ある人だけではなく、コミュニケーションに興味ある方にもお薦めです。

  • 伊藤 亜紗 (2015). 目の見えない人は世界をどう見ているのか  光文社新書
     動物の中には視覚を持っていない動物はたくさんいます。同じ地球上で生活をしているわけですが、視覚がないと生きていけないわけではありません。物理的な世界をすべて正しく知覚していないと生きていけないわけではなく、人間は他の動物と異なって聴覚や嗅覚などが劣っています。逆に他の動物では感じとっているにおいや音を人間は感じることができません。人間であれ動物であれ、外界世界をすべて把握するのではなく、自分たちの行動にとって必要な世界を作り上げて生きているわけです。それはユクスキュルのいう「環世界」なのでしょう。
     ただ、人間は視覚に頼った生活環境を作ってきたため、目の見えない人が不自由さを感じているだけです。本書の最後のほうでも書かれていますが、目の見えないという障害はその人のほうの問題ではなく、人間が作り上げてきた視覚に依存した生活環境のほうの問題なのです。
     人間の知覚について考えるにも、障害をどうとらえるかを考えるにも、読むべき価値のある本です。
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