推薦図書
私が読んだ本の中から推薦できる図書を紹介しています
日本語
金谷先生の「主語論3部作」の完結作です。今回の注目は,「虫の視点」と「神の視点」の捉え方です。日本語は虫の視点で,英語は神の視点で考えると,ほんとうにうまく説明できてしまうところは,あっぱれです。文法体系は,言語そのものを分析するだけでは駄目だということを考えさせられます。
そして,タイトルにもなっている「英語にも主語はなかった」という考察は,いかに主語という考え方が文法上特殊であるのかがよくわかってきます。
昨年(2003年)は,主語廃止論を唱えた三上章先生の生誕100年でした。三上章フェスタも開催され,三上先生の業績を今見直す好機だと思います。「日本語に主語はない」とするのが,素直な考え方だと思うのですが...
単なる文法の本ではありません。歴史や文化に興味ある人にとっても,かなり面白い本です。ぜひ読んでみましょう。
挨拶ができない,敬語がうまく使えない,誰にでもタメぐちで話す,マニュアル的応答しかできない,など,気がかりなことがたくさんあります。これらは,言葉を知らないのではなく,コミュニケーションができないといったほうがいいでしょう。本書を読むと,日本語が使えないのは,言語の問題ではなく,コミュニケーションの問題だということがよくわかってきます。
試験の答案を提出したり,資料をもらうときに,会釈をしたり,「ありがとうございます」と言う学生がいるかと思うと,私の存在に気づていないかのように,答案を置いていったり,資料を掻っ攫っていく学生もいます。
言語は,コミュニケーションの手段です。コミュニケーションをどのようにとるべきかという社会的学習がなされていないと,それぞれの場面でどのような言葉遣いが適切かを学ぶこともできません。マニュアル接客のように,言語を発してはいるけどコミュニケーションになっていないということがたくさんあります。コミュニケーションの手段として言語を使っているのではなく,一方的に,「私は,これこれのことをちゃんと言いましたよう」という自己満足で,保身のために行っているだけです。
コミュニケーションとしての言語をきちんと学ぶためには,いろんな場面でいろいろな立場の人と対面でのコミュニケーションを経験する必要があります。
筆者は日本語教師の立場から、今の日本語の学校文法がいかに誤謬に満ちているかを訴えています。人にものを教えるためには、自分でよくわかっていないといけません。自分なりに整理して、相手に伝えないといけません。今の日本語文法での整理のしかたが、どれだけ問題があるかは、外国人に日本語を教える立場だからわかることなのでしょう。私たち日本人は、日本語で書いたりしゃべったりするときに、文法を知らなくてもかまいません。間違った文法体系を与えられても、何も苦労することはないのです。文法に問題があるかどうかは、日本語を知らない人に教えるときに、はたと気づかされるのです。
もともと、英語の文法の枠に日本語を当てはめようとしたところに無理があるのです。文化が異なると、言語も違うのは当然でしょう。意味論的な違いは何となくわかるのですが、文法も実は文化を反映しているということが、本書を読むとよくわかります。副題にあるように、日本語は「ある」の言語で、英語が「する」の言語であるという見方は、とても明快です。そして、私も昔から思っているのですが、日本語には主語はいらないという論も論理的です。英語文法の枠から早く日本語文法が解き放たれることが望まれます。
私は,とても面白かったです。大学生の頃,日本語の主語論争に興味があり,個人的に,日本語には主語はないという気持ちがありました。下手に英語文法に当てはめて,日本語の文法を構築しようとするから,日本語の多くは主語が省略されているという裏技を使わないと説明できなくなってしまっています。それよりも,主語はないと言い切ったほうが,どれだけうまく日本語を説明できるのか,目が醒めるようです。
日本人が日本語を覚えるときに,文法から入ることはありませんから,日本語の現状にあっていない日本語文法が万延していても,「文法は難しい」と思えばいいだけです。さらに,英語を習うときに,英語の文法を学びますから,日本語の文法が英語の文法の体系に似ていると都合がいいのです。しかし,問題は,外国人が日本語を学びたいときです。日本語の実情にあっていない日本語文法を押し付けられますから,混乱させられてしまうのです。筆者は,カナダで日本語教育を行っている先生です。それがいかに切実かがわかってきます。
現在の日本語文法が,明治維新とともに,英語文法を輸入してきてしまった誤謬であるという指摘も,江戸以前の研究を顧みることなく体系づけられてしまったという文化論にもなっており,とても興味深いものがあります。
難しい言語学の本ではありません。一般の読者にわかるように書かれています。ぜひ,読んでみてください。
書名のような過激さはありません。優しい本です。この本を読んでいると,金田一先生のやさしい語り口調が聞こえてきそうです。「反省」というよりも,日本語を省みてみると,日本人の生き方,考え方,文化を感じとることができる本です。
私は心理学を専攻しなかったら,言語学を専攻していたと思います。大学時代に金田一先生の本を読んで言葉の面白さを知りました。でも,英語が苦手だったので,言語学はあきらめて,心理学の道に進みました。今,言語以外の非言語手がかりの重要性についてのコミュニケーションの研究をしているのは皮肉なものです。しかし,言葉の面白さは,言外にあることをいろいろ思い巡らすところにあるのだと思います。この本を読むと,その面白さを感じさせてくれます。金田一先生の独特の文章表現も私は好きです。