推薦図書

私が読んだ本の中から推薦できる図書を紹介しています

リスクマネジメント


  • 石弘之 2018 感染症の世界史 角川ソフィア文庫 1,080円+税  2年程前に買って途中までしか読んでなかったのですが、新型コロナウィルスの感染が広がり、改めて読み直してみました。災害の中でも最も多くの犠牲者を出しているのが感染症であり、戦争などでの死者も多くが感染症によるものなのです。現代は、都市化が進み人口が都市に集中し、人の移動も多くなり、感染症のリスクが非常に高くなっています。感染症で亡くなることは決して珍しいことではなく、感染症で過去に亡くなった有名人が本書で紹介されているのですが、思いのほか、多くの人が感染症で亡くなっているのがわかります。いかに感染症が脅威であるかがわかります。
     昔は、情報網が発達していなかったため、感染症の情報も十分に広まらず、防止策が立てられないまま広がっていったのかもしれません。今は情報が発達しているのですが、マスコミでもネット上でも、政府や自治体などの判断の問題追及をしているばかりで、何の役にも立っていません。
     ウィルスの変異によって生じる新しい感染症についてはわからないことが多く、どう対処すればよいのかがわからないまま、ただ収束を願うばかりです。

  • 川口マーン惠美 2015 ドイツの脱原発がよくわかる本: 日本が見習ってはいけない理由 草思社 1,512円
     原発をどうするかは国民がどう考えるかでしょうが,脱原発の具体的な進め方については,感情論的にすぐに原発を止めてしまうといったことを主張してもダメであり、リスクマネジメントの観点から考えることが必要でしょう。冷静に考えることを啓発させられます。
     エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞を受賞された本です。

  • 竹内純子 2014 誤解だらけの電力問題 ウェッジ 1,080円
     元東電の社員の方が書かれた本なので,バイアスのかかったものだと批判があるかもしれませんが,電力会社の人が,電力に対してどのような意識であるのかを理解するには良い本だと思います.また,私たちは電気が供給されることが当たり前だという生活を送ってしまっているため,電力の安定供給の仕組みがどのようになっているのか知らないことが多く,勉強になります.

  • 佐藤健太郎 2012 「ゼロリスク社会」の罠 「怖い」が判断を狂わせる 光文社新書 800円+税
     私たちの生活で,リスクをゼロにするというのは幻想にすぎません.しかし,特定のリスクをゼロにしようと追い求めるあまり,別のリスクが生じてしまうことに無頓着になってしまっていることに気づかない場合が多いのです.たとえば,予防接種のリスクがあるから受けないことによって,その疾病にかかることによるリスクに鈍感になっていたりするのです.本書では,様々な分野でゼロリスクを追い求めしまうことの弊害を紹介しています.バランス感覚をもってリスクに対処しないととんでもないことになってしまいかねません.
     本書を読んでとくに印象的だったのは,3.11の問題です.フクシマがあまりにもクローズアップされてしまい,津波によって2万人もの方が亡くなってしまったことに目が向けられなくなってしまったという指摘です.津波による瓦礫を放射能の汚染された危険物とみなされ,なかなか処理が進んでいません.そして,今後津波によるリスクの対策を検討すべきなのに,あまり語られなくなってしまいました.

  • 浜井浩一・芹沢一也 2006 犯罪不安社会−誰もが「不審者」?− 光文社新書 740円
     犯罪統計をきちんと読む解くと,決して治安が悪化しているわけではありません.犯罪が増加したという幻想のもと,防犯活動や厳罰化が進行してしまっています.被害者感情を考えると厳罰化も必要なのかもしれませんが,犯罪の抑止力につながるものではないでしょう.防犯活動も正義を振りかざして不審者を取り締まるという危うさがあります.結果的に,それが高齢者や障害者といった社会的弱者にしわ寄せが来てしまっているのです.犯罪を無くすという一見正当な活動が,社会的弱者を不審者として排除してしまっているのです.今解決すべき問題は,犯罪を取り締まることではなく,社会的弱者に対する福祉の問題のようです.
     メディアによって煽られた社会的不安は,一歩間違えると,とんでもない方向に進んでしまいます.広い意味で,リスクコミュニケーションがうまくなされない結果がこのようなことをもたらしてしまうのでしょう.

  • 小島寛之 2005 使える!確率的思考 ちくま新書 735円
     私たちの日常生活の中で「絶対確実(100%)」ということはありえません.つねにリスクが存在しており,そのリスクのもとで判断し行動しています.確率という数値に置き換えて考えているわけではないので,意識はしないないかもしれませんが,何らかの形で確率的な思考をしているはずです.ただし,人間は,限られた情報だけで偏った思考や判断をしてしまうことがあります.過大に評価したり過小に評価してしまうことがあります.BSEに対する日本の異常とも思える神経質さなどもそのひとつでしょう.確率的に考えれば,ほとんど無視してもいい事象を過大に評価してしまっているのです.
     意識的に確率的な思考を行えば,的確な判断ができることが多々あるはずです.確率的思考というのは,現象をどう見るかということであって,数学の話ではありません.本書を読んでみると,なるほどと思われることがたくさんでてきます.データのばらつきに対する考え方やベイズ理論についてもわかりやすく説明してあります.

  • 池田正行 2002 食のリスクを問いなおす−BSEパニックの真実− ちくま新書 680円
     なぜ,BSEが問題になったときに,みんなが牛肉を食べなくなったのでしょうか。それほど危険ではなかったはずです。私たちは,それ以上のリスクを負いながら生活しているはずです。交通事故に遭うリスク,喫煙による肺がん罹患のリスクなどと比較すると,BSEのリスクなんて,無視してもいいくらいの程度であったはずです。
     マスコミがあれだけ騒ぎたててしまったこと,BSEの実態がよくわかっていなかったこと,皆が食べないから食べることへの不安が増したことなど,いろいろな要因がからんでいたでしょう。ただ,問題なのは,ゼロリスクを追い求めるあまり,「食べない」という極端な行動に出てしまったときに,それが重大な社会問題を引き起こしてしまうということです。私たちは一時的に食べなかったことで,何事もなかったわけですが,不幸なことに,食肉に関わる仕事に携わっていた人たちの生活の基盤を無くしてしまったという事実は残っているのです。
     「牛肉はBSEの危険があるから食べてはいけない」ということを,金科玉条のごとく,主張することが正義であるかのように錯覚してしまっているのです。ゼロリスクを求めすぎると,社会のバランスが崩れてしまうことに気づかないのです。あいまいな情報だけで,自己の目先の利害だけを追い求めてしまうことがどのような問題になるかを考えなければいけないでしょう。
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